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「最悪の謝罪会見の教訓」ビッグモーターの謝罪会見は何を間違ったのか 2023/08/24

中古車販売大手「ビッグモーター」の不祥事がメディアを賑わせています。この問題が大きな批判を浴びる転機になったのが、兼重宏行社長(当時)の謝罪会見でした。突っ込みどころ満載だったこの会見は何が問題だったのでしょうか。「もし、あなたがビッグモーターの広報担当だったら」、どう対応すべきだったでしょうか。

●ビッグモーターの謝罪会見は何を間違ったのか

数々の不正発覚で連日各種メディアを賑わせている中古車販売大手・ビッグモーターですが、なんとつい最近まで「広報部がなかった」と2023年8月5日に新聞等で報じられました。正確には、8月に広報部門を設置し、これまでメールでしか受け付けていなかったメディアからの問い合わせに電話でも対応するようになったという発表です。

日本全国各地に支店を展開し、「故障・事故がつきもの」の車という商材を扱っていながらこれまで広報部門を用意せず、しかも報道機関からの問い合わせ対応は原則メールのみで、電話は受け付けていなかったという点は、PRを生業とする立場としては意外な事実でした。
ようやく誕生したビッグモーター広報部門ですが、早々に問い合わせが殺到しているそうです。

ちょっと時計を逆回りさせて、先日ビッグモーターの評判失墜にトドメを刺したと言われる前社長の兼重宏行氏の記者会見を、もしもあなたが同社の広報担当だったら、どう仕切るべきだったのか、あるいはどうすべきだったのか、を考えてみましょう。

●謝罪会見・釈明会見をしなくてはならなくなったら

1)会見の目的を全社で共有する

まずは、謝罪会見や釈明会見をしなくてはならなくなったら、どうすべきか。

一例を述べると、最初に対策チームを結成します。広報部があれば、広報部が主導して準備をしますが、不在の場合は謝罪・釈明会見の関連部署と経営陣が中心となって取り組みます。

そして、謝罪・釈明会見を開く理由を明確にし、さらに「なぜ開くのか」を文面化し、対策を全社員に告知します。SNSのみならず、どこから余計な情報が出て状況を悪化させるかわかりません。

謝罪・釈明会見は、裁判の弁論のように身の潔白を主張するというよりは、社会に対して誠意ある行動・態度を示し、早期の信頼回復に努めている姿勢を知らしめることが目的です。

ビッグモーターの場合、今回の会見に至るまでさまざまな角度から問題を指摘されていたにも関わらず、広報部もなかったということから、「対策チーム」があったとは思えません。

ただ、会見開催の案内状には危機管理を専門とするエイレックスというPR会社が問い合わせ先として記載されていたとのことです。

2)会見前に事実関係を確認し、会見で何を伝えるのか明確にする

ビッグモーターの会見で社長から語られた大半は、経営陣の保身に走った内容でした。ゴルフボールを靴下に入れて車を傷つけていた不正を「ゴルフを愛する人への冒瀆」と焦点がずれた発言まで飛び出し、これでは今後、襟を正して事業に取り組むという姿勢が伝わらないことは想像に難くありません。

また「私は知らなかった」という発言が目立ち、事前に事実確認が行われなかったようにみえました。

ビッグモーターは自社の存続にかかわる一大事だということは、多分わかっていたのだと思います。それにもかかわらず、このような会見内容になってしまったのは、一般的に新製品発表会でも行うことが当然とされている「リハーサル」をする猶予もないほど、ドタバタしていたのではないでしょうか。

3)謝罪・釈明会見の「べからず集」

これまで述べてきたように、ビッグモーターの会見は「謝罪・釈明会見」でやってはいけないことが散見されました。

以下、「謝罪・釈明会見」でやってはいけないことを列記していきます。

・不祥事発覚から速やかに会見を開催しない(ビッグモーターは国交省から聴収される直前まで引き延ばした)
・不祥事の原因、現状、再発防止対策をわかりやすく明確に説明しない
・「トップが知らなかった」「一部門、特定社員のしたこと」等の責任転嫁発言をする
・本質から逸れた話題を展開する
・スピーカーがメディアとのやりとりで不快感を表すような表情をしたり、質問を遮ったり強く反論する
・自社のよいところを、唐突に披露する

というようなことは気を付けるべきです。

ビッグモーターの場合、会見冒頭の発言がまるで他人事のように「特定部署の仕業」「(不正を働いた)社員の刑事告訴も考える」と他人事のようであったこと、さらに最後に新社長の紹介時に「創業者の兼重宏行の“リーダーシップ”と、その“卓越したビジネスモデル”により、いまや業界を代表する企業となりました」とある意味、自画自賛で締めたのは、「やってはいけない」を地でいっているようなものです。

●謝罪・釈明会見後のリカバリー方法

最後に、不祥事が起きて会見を開催した後の対策について触れておきます。

1)謝罪・釈明会見は頻繁にはやるべきではない

ビッグモーターは会見が火をつけてしまったかのように、その後続々とパワハラや除草剤等の不祥事が明るみに出ることとなってしまいました。広報窓口は設けたものの、改めて会見を開くことはしていない状態です。

これに関しては、正解だと思っています。謝罪・釈明会見は続けて何度もやるものではないのです。特に今回のように、前回の会見に関して釈明せざるを得ない内容も含まれている、あるいは記者から質問されそうなケースでは、「二枚舌」であることを証明するようなもので、不用意に会見しないほうがよいと考えます。

もっと言えば、頻繁な謝罪・釈明会見は「ダメな会社」の印象を社会に与えかねません。

2)禍転じて福となす事例~展示室で事故を風化させない姿勢を訴求したパロマ

不祥事の再発を防ぐ努力の証として、そしてそのことを忘れずに肝に銘じて事故を防ぐための財産に転じた企業もあります。そのひとつがパロマです。

パロマは同社の瞬間湯沸かし器による一酸化炭素中毒死が頻発しているにも関わらず、20年以上会見を開かず、2006年にようやく開催された会見でも責任回避が中心の社長発言に非難が集中して企業イメージを著しく下げました。

それを受けて、同社は企業ガバナンスの改善に勤しみ、大きく回復した企業イメージに甘えることなくさらに前進しようと、事件後10年を経て、その顛末を当時の事故機や新聞記事等を展示した部屋を本社に社内研修用として設けたのです。

社員にしてみれば目を背けたくなるような負の遺産が多くを占める展示室です。しかも、この展示室のみならずパロマが改善した顧客対応やガバナンス効果は、社員だけでなく消費者にも届くに至り、大きな成果を上げました。

パロマのホームページにこの展示室の記載はありません。それでも、語り継がれる広報活動なのです。

以上、ビッグモーターの広報担当がどうすべきだったか、考察してみました。

ここから学べるのは、やはり広報担当がいなかったということに尽きると思います。

それは、広報はメディアと企業の良好な関係を生むだけでなく、社会の風評を知る窓口でもあるからです。ビッグモーターにもっと前から広報担当がいて、メディアとリレーションできていたら、同社に友好的な関係も存在し、さまざまなアドバイスもあったと思われます。

いま一つ景気のよくない世情ですが、間接部門だと軽視せず、広報部門の存在を改めて考えてみることをお勧めします。

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