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PR系アワード最高賞独占、マイナビのPR戦略 2024/12/24

PRに関して日本で最も権威のある団体といえば、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会https://prsj.or.jp/(以下PR協会)ということになるでしょう。PR会社や広告代理店、各種企業・団体の広報担当者が会員となって構成され、広報・PRパーソンの教育・研修、調査研究、顕彰事業などを実施しています。元経済産業省所管の機関でもあります。

そのPR協会が主宰するアワードがこのほど発表されました。コミュニケーション技術の質的向上、PRに対する一層の理解促進を図ることを目的とし、制定されたものです。

審査は、課題解決のための戦略性(Idea)、課題解決のための独創性(Execution)、活動内容の専門性または完成度(Documented Results)、目標に対する直接的・間接的な成果・評価(社会またはPR業界への影響力の高さ)を指針として、戦略PRで知られる本田哲也氏を審査委員長に据え、7名のメンバーで行われました。

 

2024年PR協会アワードのグランプリは、

マイナビ

アルバイトの立ちっぱなし問題解決を目指す「座ってイイッスPROJECT」

と決定しました。

 

◆2024年PR協会アワード グランプリ以外の受賞作品


《ゴールド》

島田電機製作所

無名だったBtoBのニッチな下請け町工場を、毎月2000人以上が殺到する人気企業に変えた“ファンづくり活動”

 

《シルバー》

ヤマハ

熱があれば、だれでも音楽家。「だれでも第九」プロジェクト

 

フンドーダイ

海外評判で透明醤油に再注目をつくる「透明醤油 市場浸透プロジェクト」

 

メルカリ

メルカリで出会えるもので作った「ウチの実家」

 

エスエス製薬

睡眠計量e-SPORTS CUP「SLEEP FIGHTER」

 

ドワンゴ

「池袋ハロウィンコスプレフェス」10年にわたる地域とのコミュニケーションが築いた”聖地“

 

一般社団法人 あすには

選択的夫婦別姓を企業や生活者と考える 「Think Name Project」

 

ドン・キホーテ

世界そして未来へ。「ドン・キホーテ」の根強いネガティブイメージを変革する5年間のブランディング活動

※ドン・キホーテは企業として受賞したブランディング活動について明言していないが、2023年にリテールメディア事業を展開する新会社「株式会社pHmedia(ペーハーメディア)、を設立し、顧客マーケティングを全面的に見直した活動に対する受賞と推察される。顧客最優先主義を企業原理とし、国内外の500軒近くある店舗ごとに品揃えや価格を変化させる等の柔軟な対応にシフトした点が特徴。


《ブロンズ》

LINEヤフーコミュニケーションズ/沖縄県那覇市

~予期せぬ災害に、予期せぬ訓練を~「とつぜんはじまる避難訓練」 in那覇市

 

日本KFCホールディングス

徹底したローカル施策で、世界ブランドの象徴が関西で生んだ“奇跡の共感”「おかえり!カーネル」人形納め

 

サントリー食品インターナショナル

茶の反論 -ひろゆきさん、こちらにはエビデンス※があるんです。

※著名インフルエンサーのひろゆき氏が過去に批判した商品「特茶」のPRに、あえてひろゆき氏を起用してCM等を制作した展開等に関する活動が評価された。

 

ディップ

バイトル「高校生アルバイト応援プロジェクト」~闇バイトから身を守る、高校生への啓発授業~

 

ギリアド・サイエンシズ

コレクティブインパクトのアプローチで挑む!どの国よりも先にHIV/AIDS流行終結を目指す「HIV/AIDS GAP6」

 

Earth hacks

買い物にもう一つの基準”環境貢献”を。新たな単位Earth hacks「デカボスコア」


《審査員特別賞》

電通PRコンサルティング

鬱憤”からPRアイデアを考える新アプローチ「鬱憤構文」


 

PR協会アワード2024に見る、現在のPR業界

前回のPRNewsでは「PRに関する各種アワード受賞作品から世相を俯瞰する」と題し、ACCの「TOKYO CREATIVITY AWARDS」から見える2024年のPRの動向・傾向いついて考えました。

ACC同様にPR協会アワードでもここ数年「社会的存在意義」のあるPR活動かどうかを重視する傾向が目立っています。

PRは単に商品や企業の認知度や業績を向上させるだけではなく、それ以前に社会から「理解、認知、好感」を獲得することが重要だという、まさにPRの基本に立ち返った方向性に向かっていると言えそうです。
https://mops-pr.net/prkyoukasyo/about-pr/

 

裏金問題や闇バイト事件、企業におけるパワハラをはじめとする数々のハラスメント問題が多発し、そこに追い打ちをかけるように物価高、人手不足、賃金格差等々、一般庶民にとっては決して「楽しく生きやすい」日本ではない現状だけに、それらに真っ向から取り組む姿勢こそが「社会的存在意義」であり、受け入れられるPR活動に必須なものとなるのです。

「理解、認知、好感」の獲得は、社会問題へいかに真摯に取り組むかにかかっていると言っても過言ではありません。

 

今回PR協会とACC の両アワードで最高賞を獲得した「座ってイイッスPROJECT」(マイナビ)は、働き方改革や人手不足といった社会問題に真剣に取り組み、「働く人」と「企業」、「サービスを受ける生活者」がそれぞれの立場で、全員が幸せになる施策を模索した「理解、認知、好感」の獲得を目指した素晴らしい例ではないでしょうか。

 

「座ってイイッスPROJECT」の成功の要因について、少し分析してみます。

 

人手不足問題解決に、職場の当たり前を疑い、綿密に検証して大胆に実践

「座ってイイッスPROJECT」は、求人・採用コンサルティング事業のマイナビが「立ち仕事」の職種の労働環境向上やそれらの業種のイメージアップを狙ったキャンペーンです。

このキャンペーンのポイントは、以下の4点です。

 

・自社の課題解決を社会的問題と並列で直視し、取り組んだ
・自社の課題の原因や「当たり前」が正しいのかどうかをデータでしっかり検証した
・自社の顧客だけではなく、その顧客からサービスを受ける相手も調査の対象とし、課題の施策を模索した
・机上でシミュレーションするだけではなく、具体的に投資して施策のトライアルを繰り返した

 

施策の詳細を見ていきます。

 

「座ってイイッスPROJECT」発足のきっかけ

立ち仕事は求人への応募が少なく、人手不足が問題視されており、マイナビも対策に苦慮していました。そこで原因は何なのかをアンケートによってしっかり調査し、「立ちっぱなしが辛い」という意見が多かったことに応えて、一見立っているようにも見えるアルバイト専用の椅子の開発に挑みます。

元々付き合いのある企業から「海外では接客業でも椅子に座って対応するのは珍しくない」という情報を聞き、検討を始めたとのことです。

 

日本では販売職を筆頭に、スタッフは立って接客することが礼儀だという固定観念がはびこっていますが、これも「ほんとうに皆さんそう思っているのだろうか」と先の海外の事例を知り、マイナビはアンケートを中心とした検証を行いました。それも、働く側だけではなく、お客様の立場の方々にも意見を請いました。その結果、働く側は多くの方々が「座って仕事したい」を希望し、客側は「座っての接客自体が失礼だとは思わない」という声が多かったという結果を得たのです。

 

バイト専用椅子のデザインも念入りに

専用の椅子も、パイプイスメーカーととことん話し合って共同製作をスタートさせます。椅子を採用したことで仕事に支障を来すようなことがないよう「安定感」には気を使いました。また、バイトの方の体格は予想不可能なので1サイズで多様な背格好の方にフィットするような設計を目指したとのことです。

調査結果を踏まえて、とりあえず立ち仕事の現場に椅子を置いてみる的な施策ではなく、適正な椅子をしっかり研究して試作品を実店舗で試験導入してもらったうえで実用化までこぎつけたという念の入れようです。

高さは調整が可能で、座面は背筋を伸ばした姿勢で座りやすいように、また立ったり座ったりがしやすいように斜めになっています。全体的に就労時の体の負担が軽減されることを主眼に設計されています。

 

バイト専用椅子の導入は当初は6社、現在は約30社。問い合わせは250社以上!

反応は上々ですが、業績的な効果はどうなのかと言えば、実際に使用したバイトの方々の感想は7割以上が「今後も椅子を使用したい」と回答でした。でも、これで立ち仕事への応募が増えた感触はまだないそうです。

しかし、マイナビは立ち仕事のイメージ改善に向けて椅子を使った接客への理解を広めるために、店頭設置用のステッカーとチラシを制作し、バイト専用椅子導入企業に配布して、お客様に対してもプロジェクトを周知させ、座って働くことが当たり前になる環境づくりに注力しています。

 

PRは共感、そして理解、認知、好感の獲得が基本を、2025年再び重んじられる

このようにマイナビの二大㏚アワード最高賞独占は「嫌われる仕事の働き方改革」を具体的対策の提示とともに、その運用状況までつまびらかにすることで、非常に説得力の高いPR施策として評価されたと考えられます。

 

調査にもバイト専用椅子の開発にも、マイナビはそれなりの投資が必要でした。

しかし、自社の求人・採用コンサルティング事業に「バイトも座って接客も問題なし」という従来の通念を覆す、イノベーター的イメージを植え付け、他社との差別化にこの施策は貢献しています。

もちろん、クライアントの求人企業にも「真剣に人手不足を考えてくれるエージェント」として印象づけたとことも大きなメリットです。

さらに、働く人の気持ちを考えてくれるエージェントとして、求職者にとっても信頼を勝ち得たのではないでしょうか。

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