PRに関する各種アワード受賞作品から
世相を俯瞰する 2024/12/02
年末が近づき、さまざまな業界で今年度の表彰やプライズが発表される時節となりました。
業界単位の表彰は一方的に授与されることもありますが、プライズは主宰団体が公募し、エントリーから選出されるのが一般的です。
こうした表彰やプライズの受賞作品は、トレンドや社会の風潮、世相を反映したものが多く、PR活動の参考にもなります。
表彰やプライズの結果は、さまざまなメディアで報道されることが多く、狙って表彰されたり受賞できるものでもありませんが、企業にとっては受賞自体に広報的効果があることも見逃せません。単に報道されるから広報効果があるのではなく、受賞=自社の広報活動にお墨付きをもらったということにもなるからです。
余談ですが、表彰ではありませんが長寿連続ドラマ『科捜研の女』は、なんと京都府警から感謝状を授与されています。授与理由は、職務内容を社会に詳細に紹介したことや「科捜研」という業務のイメージを著しく向上させ、求人活動に大きく寄与した等だとか。感謝状が贈られた当時、スポーツ紙ほか各種メディアで紹介されました。これはドラマにとっても京都府警にとってもPR効果の高い感謝状だったと言えます。
さて、PR業界におけるプライズというと、日本パブリックリレーションズ協会の「PRアワード」https://prsj.or.jp/pr-award/が代表的ですが、こちらの結果発表は12月11日。それ以外に、ACC(広告およびPR業界の質向上を目指し、業界内の交流・連携助成や社会的問題に取り組む社団法人)が主宰する「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」https://www.acc-awards.com/や医療・介護のニュースを提供するCBnewsによる「病院広報アワード」https://www.cbnews.jp/hospital-pr-award/concept.html、日本広報協会主宰の「全国広報コンクール」https://www.koho.or.jp/contest/などがあります。
また、世界に目を向けると、毎年フランスで開催される広告とPRの祭典「カンヌライオンズ」https://www.canneslionsjapan.com/がよく知られています。
今回は、その中から10月30日に発表された「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS 2024」のPR部門受賞内容について、見ていきます。同アワードは13部門に分けて審査が行われ、フィルム部門(TVとWeb)等とともに、PR部門が用意されており、審査員も各部門別々に配置されています。PR部門だけでもグランプリ以下ゴールド、シルバー、ブロンズまで各賞が設けられているので、ここではシルバーまでの作品についてご紹介します。
<グランプリ>
「座ってイイッスPROJECT」マイナビ
https://baito.mynavi.jp/contents/chair/
求人・採用コンサルティング事業のマイナビの、「立ち仕事」の職種の労働環境向上やそれらの業種のイメージアップを狙ったキャンペーン。そうした職種への応募を増やす施策の一環だ。内容は、“一見立っているようにも見えるアルバイト専用のイス(椅子)を開発し、実店舗で試験導入”してもらうというもの。「働く人」と、「サービスを受ける生活者」の両方の立場で“当たり前”を疑い、社会に共感を得ながら改革していこうというのだ。バイト専用のイスの実働状況やアンケートによる周囲の反応なども随時専用サイトで報告する。「嫌われる仕事の働き方改革」を具体的対策の提示とともに、その運用状況までつまびらかにすることで、非常に説得力の高いPRだと評価された。
<ACCゴールド>
「2531佐藤さん問題」夫婦別姓推進団体あすには
「Think Name Project」は、選択的夫婦別姓について考えるきっかけをつくろうと、趣旨に賛同する複数の企業が合同で組んだプロジェクトで、2024年3月8日の国際女性デーに始動している。それに伴い、啓発企画として制作されたPR施策が「2531佐藤さん問題」だ。企画の概要は、夫婦別姓を合法化しないと、“現在の日本の名字の傾向から「2531年には全員の名字が佐藤になる」という統計学に基づいたシミュレーション結果を活用し、問題意識を高めてもらう”というもの。この考え方を軸に、賛同企業や人口問題専門家等の識者とともに現在もYouTubeや論文、シンポジウムなどで多面的に選択的夫婦別姓問題に関する問いかけ企画を展開中だ。
<ACCシルバー>
「聞こえてきた声。」ACジャパン
https://www.ad-c.or.jp/campaign/search/index.php?id=887
公共マナーや環境問題をはじめとする、普遍的な社会問題を常に問題視し、広告やPR活動において平等に正しく扱われているか等を調査・研究するACジャパンが、“日本はジェンダーギャップ後進国”だということを、数値や漫画を使って訴えている。
活動は、ラジオ、Web、Web動画、紙媒体などで幅広く展開された。ただ、素材は大半が漫画とその吹き出し+音声で構成され、「声だけで性別を判断しない」というメッセージを投げかけるというパターンで統一された。
「冷凍餃子フライパンチャレンジ」味の素冷凍食品
https://www.ffa.ajinomoto.com/enjoy/frypan/
餃子がフライパンに張り付いてしまったという、SNSでのひとつの投稿に対し、味の素冷凍食品が「餃子の調理に失敗したフライパンを提供していただき、研究・開発に活用したい」と公式アカウントで返答したところ、前向きに話題が広がり、多面的なPR施策に拡大した。
SNSでの投稿をきっかけに、餃子をうまく焼けないお客様とコミュニケーションをとりながら問題解決方法を共有したPR手法。実際に上手に餃子を焼けなかった際に使用したフライパン3520個を回収し、マイクロスコープでの表面分析・3Dスキャンによるデータ収集・調理による解析を実施し、結果をキャンペーンサイトで公開している。さらにこの研究成果として冷凍餃子のリニューアルを2024年1月に発表し、2月より店頭発売につなげた。
「夏、子どもの高さは大人より7℃も暑い! グリーン ダ・カ・ラの熱中症対策啓発 「こども気温」プロジェクト」サントリー食品インターナショナル
https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1397.html
水分補給飲料のグリーン ダ・カ・ラのPRの一環として、「こども気温」(大人に比べて地面からの照り返しの影響を受けやすい子ども特有の暑熱環境)に注目した熱中症対策啓発活動を行ったもの。都内に期間限定で「こども気温 お知らせ(グリーン ダ・カ・ラ)自販機」を設置。そのほかにも「こども気温」啓発イベントを対面やWeb等で開催した。さらに気象専門会社のウェザーマップとの共同検証実験も実施し、その成果を発表して猛暑対策を呼び掛け、グリーン ダ・カ・ラの有効性を訴求した。
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受賞作品の傾向としては、どれも企業や商品の単なる認知向上を狙うわけではなく、「社会問題」をPRに取り入れた施策になっていることがわかります。この傾向は昨年の受賞作品にも感じられます。https://www.acc-awards.com/festival/2023fes_result/pr.html
また、手法的にはマスメディア、Webなど複数メディアで展開することは、もはや当たり前となっていることが裏付けられたと言えます。特に、ユーザー参加型までをも組み合わせた立体的な構造が目立ちました。
日本パブリックリレーションズ協会のアワードが発表されたら、また傾向を見ていきたいと思います。