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PRアワードグランプリ2020受賞・ダイキン工業のお手本的広報戦略 2021/03/04

PRの普及と発展に寄与することを目的として優れたPR事例を顕彰する「PRアワード」(主催:日本パブリックリレーションズ協会)は、ダイキン工業が2020年グランプリに輝きました。
表彰理由には以下のようなことが挙げられています(※わかりやすくするために表彰団体のコメントに一部追記しています)。
・コロナ禍にあらゆる事業計画が狂い続けた一年に、自社の特性をコロナ禍対策として初速鋭くアプローチを重ね、社会的存在意義すら伝えた。
・自社の特性、メッセージにブレがない。競合他社がよりわかりやすい特性やメッセージを連呼してもダイキン工業は自社の信念を貫き、結果的に競合他社と鮮明に差別化することに成功した。

もう少し詳しく、ダイキン工業の2020年のPRについて見ていきましょう。
ダイキン工業は総合空調専業企業であり、世界150カ国以上で事業を展開しています。近年は個人/法人向けのエアコンが事業の柱だと、同社の企業情報サイトで十河政則代表取締役社長兼CEOは述べています。
しかし、エアコン市場では、白物家電の雄であるパナソニックや三菱電機、日立の前にあっては三番手の印象はぬぐえません。
ダイキン工業がトップグループに踊り出ることができない理由はいくつか考えられます。まず、CM等の出稿量による一般的な認知度が低いこと、事業内容としては法人比率も高いために地味な印象があり特に若い層に弱い、エアコンのセールスポイントに「省エネ」を掲げる企業が多いのに対してダイキン工業は「湿度コントロール」を第一に掲げていてわかりづらい……などです。

●PR方針の軸は曲げずに、ネットを効果的に使って若年層へ訴求
エアコンは生活必需品に近いものなので、購入に長時間比較検討することはなく、「省エネ」や「室内を簡単に好みの温度にする」をアピールしたほうがわかりやすい商品です。じっくり考えれば「あ、こちらのほうがいい商品!」と気づく前に買い物に走ってしまうケースが多いようです。
購買者も設置する家屋の所有者(親または物件オーナー)となる場合が多く、若年層には縁が薄い商品だとも言えます。
しかし、ダイキン工業は「わかりづらくても自社のキャッチフレーズ“空気で答えを出す会社”は変えない」と、エアコン商戦でも「エアコンは温度と同じくらい湿度のコントロールも重要」という姿勢を貫き続けました。ただし、数年前から採用と潜在的購買者の獲得を目的として若年層向けアプローチには取り組み始めまています。
コロナ禍に襲い掛かられる1年前の2019年よりInstagramとYouTubeを利用して「快適な生活=湿度が重要」を若い層に理解してもらえるように、プロモーションを展開しています。
InstagramとYouTubeのモデレーター的な存在として、YouTuberやモデル、タレントとして活躍中のkemio氏を置き、彼から湿度や生活環境に関するクイズの出題等でコンテンツを盛り上げていきます。kemio氏を選んだ理由は「フォロワー数だけではなく、環境破壊や人種差別といった若年層が興味を抱きにくい社会的トピックを軽妙に扱うことが得意という点に注目」してのことだと、インプレスのWeb担当者向けセミナーでダイキン工業の広告宣伝担当者が語っています。2020年には改めて「快適になるためには温度だけではなく、湿度が大事」を訴求ポイントとして掲げ、先のSNS上で湿度に関するクイズを10秒ごとに出題して解答発表時にkemio氏をはじめとしたインフルエンサーによるリアクションの楽しさで最後までコンテンツに付き合ってもらえるように工夫する等で、 「湿度に関する詳細の話」を存分に吸収してもらうことに成功したといいます。
「湿度」にこだわり続けたことで、競合他社と差別化するかたちでダイキン工業を印象づけることができたのです。

●コロナ禍で見直された換気や保湿の重要性に乗じて、自社の特性を各種PRで強調
そして2020年といえばコロナ禍ですが、ここでウイルス対策には“換気”と“保湿”が重要だと喧伝されました。その具体策としてエアコンの効用をメディアで説明する機会が訪れたのです! これを見逃すことなくダイキン工業は仕掛けました。なにしろ「換気ができる家庭用エアコンを開発する日本唯一のメーカー」なのですから。
2020年は、換気の話が出る番組には必ずといってよいほどダイキン工業の担当者が登場するほどでした。
これはメディア関係者へ働きかけただけではなく、機を見るに敏のごとくスピーディーに策を施し続けた成果だともいえます。2020年に実施された主要なダイキン工業の施策は以下のようなものがあります。

4月:緊急事態宣言発令前に『上手な換気の方法~住宅編』をWebコンテンツとして発表
5月:緊急事態宣言解除後に『上手な換気の方法~オフィス・店舗編』をWebコンテンツとして発表
6月:換気時のエアコン使用法に対する意識調査を実施し、結果を発表
7月:医学博士によるWebセミナー『コロナ禍における熱中症対策と上手な換気の方法』開催
8月:『窓開け換気時のエアコンはつけっぱなしが正解』を住宅で実験し、結果を公開
10月:換気に関連した5つの新製品の発表会開催
11月:『上手な換気の方法~住宅編』に『冬場の換気方法』を追加してWebコンテンツとして発表
11月:全国1,000人に聞いた、2020年コロナ禍の空気感調査『第26回 現代人の空気感調査』を実施し、結果を発表
などなど。これらはごく一部で、ほかにも各種セミナーの開催、週刊東洋経済ではそれらの成果や事例をタイアップ企画として長期で連載されています。
東洋経済連載

●競合他社との鮮明なブランドの差別化
コロナ禍に於けるPR活動では、深刻な印象を払拭する役目としてダイキン工業が2000年からイメージキャラクターとして採用している雫の形状をした“ぴちょんくん”も大活躍しました。ぴちょんくんは、他社から絵本や衣料品が出るほどの人気者であり、湿気を見事に表現したマスコットですが、図らずもコロナ禍によりようやく「湿気対策の重要性」が浸透し、その存在感も増しています。
ぴちょんくんの情報はこちら
また、SNS等を駆使したプロモーションは『上手な換気の方法』が公開から半年で50万PV以上を獲得したほか、現在も「換気」の検索によるヒット数は常にトップまたは上位に位置する成果を示しているそうです。
12月24日の日本経済新聞によれば、ダイキン工業は2021年3月期の業績予測でなんと三回目の上方修正をしたと報じています。

ダイキン工業の2020年のPRアワードグランプリ受賞は、「社会に貢献する広報活動であれ」「時流を見逃さずに機敏に動け」「方針をブレさせない」「ターゲットを明確に」といったPRの基本中の基本が散りばめられ、それが見事に開花した結果だと言えるでしょう。

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